<2021年決定版③>アメリカキッチン用品業界トレンド

目次

  1.  アメリカのキッチン業界について

  2.  2021年アメリカのキッチン用品業界のトレンド

  3.  注目のブランド

  4.  まとめ


1. アメリカのキッチン業界について

 現在のアメリカ市場では、パンデミックの影響もあり、ミレニアム層を中心に素材・食の安全性にこだわりを持つ人が増えた結果、外食やデリバリー過多の生活から、ホームクック中心のライフスタイルへ移行しています。また、食生活から健康な体作りを意識する傾向により、ヘルシーな食のブームは衰えず、さらに世界各国の料理も取り入れるなど、調理の多様化が進んでいます。

 こうした変化の中、キッチン用品業界でも、これまで以上に多様なニーズを満たす必要性が生まれ、新たなトレンドが見られます。以下では、そうした最新のアメリカキッチン用品業界のトレンドと、注目のブランドについて、見ていきます。

 

2. 2021年アメリカのキッチン用品業界のトレンド

① カラーバリエーションへの注目

 キッチン用品といえば、従来のメタリックな鍋やカトラリーを想像する方も多いのではないでしょうか?一方、近年のアメリカ市場では、キッチンを彩るカラーバリエーション豊富なキッチンツールの需要が高まっています。

 特に、“Warm Neutral Tones”という温かみやナチュラルさを演出するカラートーンがトレンド。なお、この傾向はポストコロナ禍でも継続する展望です。

さらに、PPG(世界最大の塗料会社)が発表した2021年のPallete of the yearは、ベージュを基調としてオレンジや水色を含む、温かみのあるカラートーンです。パンデミックの影響もあり、人々は落ち着き・癒しを求めるようになったことがこうしたウォームトーンのトレンドを生み出したと言われています。

 以下で注目のブランドとしてもご紹介する Great Jones およびOur Placeは、カラー展開や製品の質感・フォルムが”温かみ”というトレンドによく則っており、今日までのわずか3年余りで大きく成長したベンチャーブランドです。

 さらにこうしたカラートレンドの背景には、多様性とSNS映えという2つの理由があり、これらは近年キッチン用品業界に限らず重要なポイントとなっています。

 まず、多様性について。上述のように食生活や料理の選択肢も多様化する中で、調理器具もメタリック一択から複数のカラーバリエーションを提供するように変化していき、個を尊重するアメリカ社会において多様性を認めることに繋がっています。

 そして、SNS映えについては、現在の主な消費者層であるミレニアル世代の存在に着目できます。ミレニアル世代とは、1980年代序盤から1990年代中盤に生まれた世代を指し、現在のアメリカ市場における約40%の消費行動を担っていると言われます。デジタルネイティブである彼らは、インターネットを通じた購買を盛んに行い、SNSで自らのライフスタイルを積極的に発信します。キッチン用品業界においても最重要なターゲットである彼らに対して、SNS映えするカラフルな製品を提供することで、効果的なアプローチを図ることができます。

② スマートシステム

 キッチン用品に限らずホーム全体のトレンドともなっている、スマートシステム。洗練されたシンプルな見た目と、機能性を兼ね備えた製品として、タッチパネルや音声認識機能のついた冷蔵庫や、スマートフォンと連動できるオーブンなどが注目されています。

 キッチン用品におけるスマートシステム市場については、世界的にビジネスニュースを配信するbusinesswire社によって以下のような試算がなされています。

  • 同市場の年間成長率は2019-2023年の間で23%に到達する

  • 調理器具と比べ、スマート冷蔵庫市場の成長率がより高い

  • 多機能な製品が中心的なトレンドとなる

出典:https://www.businesswire.com/news/home/20190107005698/en/Global-Smart-Kitchen-Appliance-Market-2019-2023-23-CAGR-Projection-Over-the-Next-Five-Years-Technavio より

 ここでも、メインターゲットであるミレニアル世代に注目することで、このトレンドの背景をご説明します。スマートスマートシステムを搭載したキッチン用品は技術費として比較的高価な傾向にあります。しかし、ミレニアル世代の特徴として、「価値のあるものは多少高い価格でも購入する」という点が挙げられます。幼い時よりデジタル機器に親しんできた彼らや若い世代は、こうしたスマートシステムの高い機能性を認め、消費するのです。これはスマートシステムに限らず、高い機能性を誇る製品を求める傾向に繋がっており、以下でご紹介するmade inやOur Placeといったブランドの人気の理由でもあります。

 

3. 注目のブランド

① Great Jones https://greatjonesgoods.com/

 幼少期より20年来の友人であるSierraと Maddyが、2018年にニューヨークで創業したD2Cブランド。立ち上げと同じく2018年、投資ファンドであるシードラウンドにおいて、食品・料理関係者をはじめとした多くの支援を集め、335万ドル(約4億円)を調達しました。「既存のトップブランドを脅かすベンチャー」とまで称されるほど、注目されています。LAの有名レストラン”Sqirl”でもポップアップを開催し、鍋がバックオーダーになるほど盛況しました。

 彼らの製品の魅力は、前述のように”温かみとデザイン性”にあります。機能性はもちろんのこと、アートピースのような調理器具で食卓を彩ることができます。こうしたデザインへの配慮はウェブサイトにも反映されており、製品写真にカーソルを合わせると調理例が見える仕組みや、スペックを手描きタッチのイラストで紹介するなど、といった工夫が見られます。

製品写真にカーソルを合わせると使用例が見える(画像左 The Dutchess 参照)

The Dutchessのスペックを手描きタッチのイラストで紹介している

 さらに、マーケティング戦略として、市場の中間価格を狙うことで、「高級ラインの中ではリーズナブル」というブランドポジションを確立しており、他のブランドとは一線を画します。また、彼らはInstagram(@greatjones)をマーケティングの鍵として、ターゲットであるミレニアル層に効率的にアピールしてきました。あえて自社製品を押し出しさない投稿や、ストーリーズ機能の活用といった戦略により、現在は9万人近いフォロワーを獲得しています。

② made in https://madeincookware.com/

 創業100年を超える業務用調理器具会社の3代目であるジェイクと、彼の友人であるチップの2人が2016年にテキサスにて設立。"プロ品質の製品を家庭へ”というモットーのもと、プレミアムな調理器具を一般大衆向けに安価で販売するD2Cブランドです。ホームシェフへのインタビューを積極的に行うなど、消費者に寄り添った製品開発・提供を行っています。フライパンおよびナイフがベストセラー製品であり、キッチン製品一般を展開しています。

made inの実践しているD2C流通モデルのイメージ

 米大手通信社であるCNBCによりスタートアップ企業トップ100に選ばれ、さらに消費者レビューは満点の5つ星を40,000以上も獲得するなど、大きな注目を集めている同ブランド。その魅力は、”製品のプレミアムさ”にあります。D2Cブランドといえど、単に低品質の製品を安価に提供するのでなく、プロ向けの製品を良心的な価格で提供してこそ意味があるでしょう。そこで、彼らのSNSを見てみると、家庭向けを謳いながらも、プロの使用例を掲載することで品質の高さを効果的にアピールするマーケティング手段が取られていることがわかります。

出典:made in 公式Instagram(@madein)より

③ Our Place https://fromourplace.com/

 パキスタン出身のシャヒドが2人の共同創設者と共に、2019年に設立したキッチン用品ブランド。彼女は、女性運動家としてマララ基金の設立にも携わるなど、活発な活動を展開しています。

 ブランド名の通り、家庭料理を通じて食卓をコミュニケーションの”場=Place”とすることをミッションとしています。製品の特徴はなんといってもその”多機能性”。彼らの代表製品であるAlways Panは、蒸気孔つきのフタ、蒸し調理にも用いられるザル、さらにヘラまでが1つのセットとなっており、本製品で8つの用途をカバーできます。カラー展開も10色と非常に多様で、実用性とデザイン性をうまく両立させた例とも言えるでしょう。

Our Placeを代表するベストセラー製品「Always Pan」

 さらに、公式インスタグラムはフォロワー数32万人以上を誇り、著名人やインフルエンサーへの製品提供を積極的に行うことで、ミレニアル世代のSNSユーザーを中心に爆発的に人気を得ています。

出典:Our Place 公式Instagram(@ourplace)より

 

4.  まとめ

 いかがでしたでしょうか。

 現在のアメリカのキッチン用品業界では、温かみのあるカラー、スマートシステムが注目されており、この傾向はポストコロナ禍でも継続すると言われています。こうしたトレンドの担い手は、ミレニアル世代。デジタルネイティブでSNS映えを意識したり、高い機能のある製品であれば高価でも厭わないなどの特徴が、近年のキッチン用品業界のトレンドを裏打ちしています。

 さらに、近年注目されているブランドは、こうしたトレンドに配慮したデザインと機能性を実現する製品開発に加えて、SNSでの精力的なマーケティング戦略やD2Cの流通モデルといった手段で大きく成長しているスタートアップ企業です。

 今後、アメリカのキッチン用品市場への展開を検討される場合、上記を踏まえた戦略を練られることが有用でしょう。

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