<最新トレンド⑦> アメリカ小売り業界 2023年上期振り返り

アメリカを代表する小売大手企業 Bed Bath and Beyond (以下BBB) が4月23日に連邦破産法第11条の適用を申請したというニュースが日本でも大きく報道されました。今日は私たちにとっても非常に重要なアメリカの小売業界の今と、2024年も好調であろう小売企業の戦略から見る、生き残り戦略のトレンドをまとめていきます。

1.  アメリカ経済の雲行きは怪しい?

2. 好調な小売企業

3. 小売業界の新たな戦略トレンド

4. 最後に


1.  アメリカ経済の雲行きは怪しい? 

 BBB は、コロナ以降オンラインへシフトする消費者の動向についていけず、重大な経営問題を抱えていた同社は長らく破綻するのでは?という噂がありましたが、ついに噂が現実になり業界に激震が走りました。BBBは今後全米にある360店舗をクローズすると発表しています。仮に良い売却先が見つかれば新たなBBB としてスタートする可能性もありますが、アメリカ消費、経済動向全体に変化がみられる昨今、スムーズな再スタートは難しいかもしれません。

 アメリカの2/3の小売業界の経営者が今後、続くインフレと消費者の経済的状況の悪化により、収益に不安があると回答しています。小売全体のセールスの成長率も2023年は4-6 %と、去年の7%と比較すると大幅に下降するとの見通しもあります。

 ただ、以下のグラフをみるとわかるようにコロナから小売業界が急速に過熱しており、成長率としては2019年以前の水準に戻っていく、とみることもできます。経済政策によりインフレ抑制のために経済の活動が緩やかに抑制されている状況の中で、BBBのように淘汰されていく企業も出てくるかと思います。しかしインフレが少しずつ緩和されつつあることも事実で、労働市場は未だ高水準で推移しており、それにより消費動向の堅調さは保たれているといえます。
 今後小売企業が生き残り、成長するためには当たり前ですが、(非常にスピードの速い)市場のニーズをくみ取り、素早く適切に戦略に反映させることが重要になります。

 

2. 好調な小売企業

 このような状況下でも比較的好調な企業としては、Dollar General(100円均一最大手。実際には$1のものだけではない)、TJX Nordstrom Rack などのディスカウント大手になります。BBBの店舗は小売りにとって条件の良い場所にある場合が多いので、こうした企業が居ぬきで入るのでは、ということも予測されています。

 やはり経済が落ち込むとディスカウントオファーやセールなど、価格重視の企業に人が集まりやすいですが、一方でCostcoTargetなど、価格だけでなく「ここでしか買えない」というオリジナルブランドでの展開商品数を増やすことで、Amazon に負けない集客を創出している企業も人気を集めています。特にTarget はWalmart のような単なる安売りに頼らず、幅広い商品カテゴリにおいて中高価格帯~低価格帯の幅広い商品展開を行っています。また、カテゴリや客層に合わせて 45以上のオリジナルブランドを立ち上げており、品質、デザイン、新規性など一定以上のレベルを満たした商品ラインナップで消費者を魅了しています。

 私も個人的に、Target にいけば子供服やおもちゃ、食材、自分の服やホームデコレーションなどあらゆるカテゴリの買い物が一度に済ませることができ、いつ行っても新しい面白い商品に出会えるので、「週末はTargetへ」というプランになることが頻繁にあります。


3. 小売業界の新たな戦略トレンド

3-1. シームレスなショッピング体験
 オムニチャネル戦略は現在ではとても当たり前になりましたが、店舗、オンライン、SNS、ライブストリーミングなどオンラインオフラインのあらゆる側面における消費者のショッピングの体験が、よりシームレスにつながり、少ない手間で完結することが重要になっています。
 とくにInstagram, TikTok, PinterestなどSNSの重要性は増すばかりなので、そこから流入した興味関心を購買につなげるための簡単でスムーズなショッピングシステムを構築することは必要不可欠な戦略といえます。

QVC が立ち上げたZ世代向けのライブストリーミングによるショッピングプラットフォーム。ブランドはコミッションを払うことで、サンプルを送ればsuneチームが専用のセット会場でライブ動画を配信し、販売してくれる。


 オンライン、オフラインの購買をスムーズにするためには配送も重要な要素になります。アメリカは東海岸と西海岸で3時間の時差があるほど土地が広大なので、これを実現するためには、MCFと呼ばれる小口の配送センターを各地に設けたり、各地にある店舗の在庫自体も完全にシステム管理し各家庭に配送したり、あらゆる取り組みのより効率的で迅速な配送を実現しています。

Target が買収した配送サービス Shipt  https://www.shipt.com/  自宅の周りのスーパーの食材などをShipt上でオーダーし、即日配送してくれる。


3-2. 各店舗の価値や意義の再定義
 オンラインの存在感が高まる一方で、オフラインつまり実店舗の担う価値や意義が変化しています。Amazon をはじめ、オンラインで簡単便利に安くなんでも購入できるため、店舗で同様の商品ラインナップや、付加価値の少ない販売方法をしているようでは小売り各店舗は生き残れません。(BBBのように・・・)

 Target は大学のある地域に、通常店舗よりもダウンサイズし、学生が求める商品をラインナップするTarget Campus Storeを全米に展開しています。


全米に1300店舗以上を展開する、美容専門小売Ulta Beauty https://www.ulta.com/ は、2022年247店舗を新たにオープン。その店舗設計はUltamate Beauty loyalistsと呼ばれるロイヤル会員たちの声を反映し行われました。これまでのブランド別の固定的な棚割りではなく、トレンドを提案したり、デモグラフィック別に買い物ができたり、美容用品を楽しくショッピングできるような新たな提案になっています。また店舗の決まったスペースで “Beautytainment” と呼ばれるブランド協業型のイベントを開催したりと、店舗に訪れた顧客が 「商品を購入する」こと以上の価値を提供する取り組みを実施しています。


4. 最後に

 冒頭に述べたように、コロナや戦争などの要因による消費動向の急激な変化やインフレなどによって、アメリカの小売業界に再編の波が来ているのは間違いないといえます。アメリカの各小売企業は、自社・自店舗の持つ市場価値を再定義し、テクノロジーをうまく活用しつつ、常識やこれまでの枠組みにとらわれないオンライン、オフラインでの戦略作りがより重要になっていると感じます。10年前までトレンドだったアメリカを代表するような大型ショッピングモールは昨今人が集まらず、テナントも撤退傾向にあるといわれています。一方で、小型でオフィスや住居など、あるコミュニティーの一部に存在するショッピングセクションは、各テナントは個別で独立しつつ、コミュニティーの雰囲気に合った店舗が混在し、イートスペースやイベントスペースなどを設けることで小さなコミュニティーを創出し、人々が訪れる理由を作り出しているようなものもあり、今後はこうした形の小型モールが主流になるのかな?とも感じています。ブランドも小売りも、ターゲットを明確にしたコンセプトを軸に、市場ニーズにこたえる価値を提供し続けることが当たり前ですが重要だと再認識しました。

LAのダウンタウンにあるROW DTLA 。テナント数は決して多くないが一つ一つがこだわりの店舗が集まっていて、周辺で働く人たちの憩いの場になっている。


Lily

BOUS 代表。中央大学卒業後、キャノンマーケティングジャパン入社後、BtoB デジタルマーケティングの販促に携わる。2014年に単身渡米。NYにて20年以上日本企業のアメリカ市場進出サポートを行うMira Design へ入社。その後7年間、ジェネラルマネージャーとして、市場調査、企画、デジタルマーケティング、メディアPR, 営業と包括的に日本企業の海外進出をサポート。2021年独立、Bous起業。

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