<最新トレンド⑧>アメリカのインフルエンサーマーケティングのトレンドとその重要性について

 主にSNSで一定のフォロワーを持ち情報を発信している人をPR、マーケティングで活用するインフルエンサーマーケティング。アメリカの90%以上のマーケティング担当者が活用しているといわれています。私たちも普段デジタルマーケティングを行う中で、インフルエンサーを活用し、ブランドや商品の魅力を市場に発信していくことの必要性と重要性(そして難しさ)を日々実感していますが、その中で最近特に重要だなと感じていることについてお話します。

 

1. なぜ今インフルエンサーマーケティングが、重要なのか
2. ブランドは人間味を持て
3. より狭く、より近く
4. 最後に


1. なぜ今インフルエンサーマーケティングが、重要なのか

アメリカではここ数年でデジタルマーケティングにおいて、Google 広告やFacebook 広告と並び、一般的かつ重要なマーケティング手法になっています。その市場規模は2010年は$10億ドルだったのが、2021年には $ 132億ドルと10年で約十倍にまで成長しているというから驚きです・・・ではなぜインフルエンサーを活用したPRがブランドや企業にとって重要なのか。理由は沢山あると思いますが、根源的な理由はこの二つかなと思います。

①個の強化
インターネット、SNSの普及によって多くの情報を能動的に取得し、また発信できるようになりました。このおかげで私たちは多くを学びながら、自分を見つめ、他者への共感力を強めました。社会において自分は何者で何を大切にして、どんな価値があり、どう行動すべきなのかということを常に意識し生活するようになっています。社会問題に敏感で、多様性や異なる価値観を重視しつつ、同一の価値観で形成された強固なコミュニティーを好むアメリカのZ世代( 2023年時点で11~26歳以下) はまさにこうしたテクノロジーと社会問題を背景にした世代キャラクターを表していると言えます。
 これまでのブランドや企業からの大衆に向けられた一方通行なコミュニケーションではなく、自分と近い価値観やテイスト、ライフスタイルを持った、”SNS上の友人” であるインフルエンサーからの発信に対して、よりリアルかつ好意的に受け止めるようになっています。


②情報取得がSNS
特にZ世代を中心に、日常ニュースなどの情報も、ソーシャルメディアで取得する傾向が強まっています。能動的に検索をしたり、ソーシャルメディアの外にあるニュースメディアサイトにわざわざ見に行くのではなく、自分が興味を持つないし支持しているアカウントの発信する情報を受動的に受け取り情報を取得している人が増えています。SNSのシステムは見ている人の興味関心を測り、その人に合わせた情報をカスタムしてくれるため、受け手にとってはより便利で効率的です。(それが正しいかどうかは別の議論と思いますが)特にアメリカは地域や宗教、政治的趣向によってメディアが細分化されていて、大衆が見ているメディアというものが日本ほど確立されていませんので、この傾向は強いといえるかもしれません。

SNS上で過ごす時間が増え、さらにデジタル交流という役割だけでなく、情報収集、リサーチといった側面まで担うようになったSNSで、インフルエンサーがフォロワーに発信する情報というのはより重要で意味のあるものになっています。
 それでは続いて、実際にインフルエンサーマーケティングを実施するうえで、私たちが最も重要だと思う要素二つについてお話したいと思います。
 

Z世代の特徴。左から、個性は一つではない・あらゆる共同体で成り立った・対話重視型・現実主義が挙げられる。

若い世代ほどSNSを日常の情報収集手法に活用している。

2. ブランドは人間味を持て

Z、ミレニアルズ世代を中心とした現代の消費者は、ブランドを人格をもった人として捉える、ないしそう感じられるブランドを好む傾向にあります。人格=ブランドのコンセプトが自分の価値観と合っているのかどうかということがその企業やブランドを評価するか重要な価値基準なのです。とはいえブランドや企業、商品は人間ではないので、直接的に自分の考えを話したりはできません。この人間性、人格の部分を補完してくれるのがインフルエンサーです。インフルエンサーも同様に、ファッションやフードなどそれぞれの特化した分野において発信するコンテンツに自分の価値観や主義をうまく組み合わせながら、自分の人格を表現することで多くの支持を得ています。なので、企業は自分のブランドに持たせたい人格と近しい価値観を共有できる、もしくはその人格を補強、補完できるインフルエンサーと協業することで、間接的に人間味を持たせることができるようになります。
 インフルエンサーがブランドとのスポンサー協業で、フォロワー数を落としたり、企業側もあまり広告効果が得られないというケースにおいては、この部分のミスマッチが原因の場合が多いように思います。

マイクロではないですが絶大な人気を誇るBILLIE EILISHのインスタグラム。 https://www.instagram.com/billieeilish/  広告的な美しい投稿もありますが、日常のセルフィ―や子供の時の写真、生活の垣間見える写真などの投稿で、彼女との距離感がぐっと近く感じられます。体重が増え体の線が太くなって批判されても気にすることのない姿勢や、Black Lives Matter運動のときもセレブの中でもかなり早い段階から問題に対しての自身の意見を明確に発信したりする勇気のある姿が支持されています。インフルエンサーを採用するブランドや企業はこうしたそれぞれの持つ価値観や支持されているコンセプト、人間性を理解する必要があります。


3. より狭く、より近く

最近のトレンドとして、セレブと呼ばれるような数百万規模のフォロワーを抱えるメガインフルエンサーよりも、5000-数万規模のフォロワー数のマイクロインフルエンサーの重要性が高まっています。フォロワー数の規模はそれほど多くなくても、コミュニティーの中で、良質なコンテンツを提供し、こまめにフォロワーとコミュニケーションをとるマイクロインフルエンサーの影響力、彼らに対する信頼度は高くなっています。マイクロインフルエンサーたちの重要性は①“Everyday People” = 普通の人であるていう点と、②高いエンゲージメント率にあると思います。

①“Everyday People” = 普通の人である
人々は、煌びやかな生活を送る雲の上の遠い人よりも、日常的な苦労や悩みを抱えながらもクリエイティビティ―やセンスを発揮するようなインフルエンサーに強い魅力を感じる傾向にあります。肌が荒れているとか、大きな失敗をしたとか、鬱になったとか、日常で同じような悩みを抱えながらも、前向きにやりたいことに向かい努力しているという姿を見せることで、フォロワーは強く共感し、支持していくことになります。こうした基盤は大変強固なコミュニティーの形成につながります。


②高いエンゲージメント率
マイクロインフルエンサーのエンゲージメント率は3.86%平均となっています。絶対数が少ないので、インフルエンサー自体が細やかなエンゲージメントを作り出すことができます。一方メガインフルエンサーは1.21%にとどまっています。SNSの中でもTikTokが特に高くマイクロインフルエンサーのエンゲージメント率は18%、メガインフルエンサーでも5%になっています。ショート動画のリアル感、距離感だけではなく、こうした実際のつながり自体もTikTokの魅力といえます。人々は情報を受け取るだけでなく、自分自身も “何者” かであるということを感じたいので、インフルエンサー側からも直接的な関わりがあることで、さらに好感度を上げていくことになります。

ニキビ用パッチのブランドSTARFACE https://starface.world/  肌の悩みを抱えるティーンに共感されるような距離感の近いコミュニケーション作りを徹底している。選ばれるインフルエンサーも着飾った人ではなく、一般の感覚に近い人が多い。TikTokなどではブランド発信の綺麗なコンテンツではなく、消費者の作るかなり日常的なコンテンツばかりが並ぶ。

4. 最後に

以上アメリカのインフルエンサーマーケティングのトレンドについてまとめました。ここではまとめきれない多くのポイントが他にも沢山ありますが、今日は私たちがインフルエンサーマーケティングにとって根本的に重要だなと感じている点についてまとめました。
すごくシンプルにいうと、アメリカでブランドを成長させるためには「距離が近く、人間味を感じることができるブランディング、マーケティング戦略」がとても重要で、そのためにインフルエンサーを活用していくということになるかなと思います。以前日本のクライアントの方とお話した際、「日本でインフルエンサーマーケティングを少しトライしてみたけどあまり結果(=フォロワー増やす、売上上げる)が出なかったのでやめてしまった」ということをお伺いしました。インフルエンサーマーケティングはもはや単に認知を増やしていく作業ではなく、ブランド価値を訴求し、補強していくブランド作りの重要戦略の一つになっていると感じます。短期的にフォロワー数の多い人を選ぶのではなく、価値観が合っていて、ブランド価値の向上につながるような質の高いコンテンツを発信している人と、継続的な取り組みを通して信頼関係を作り、良いパートナーシップを育てていくことが成功の秘訣かなと思います。そのためにはブランドや商品自身のコンセプトをしっかりと持ち、インフルエンサーの精度の高いリクルーティングと関係構築のマネジメント体制の構築が重要だと日々感じています。

Lily

BOUS 代表。中央大学卒業後、キャノンマーケティングジャパン入社後、BtoB デジタルマーケティングの販促に携わる。2014年に単身渡米。NYにて20年以上日本企業のアメリカ市場進出サポートを行うMira Design へ入社。その後7年間、ジェネラルマネージャーとして、市場調査、企画、デジタルマーケティング、メディアPR, 営業と包括的に日本企業の海外進出をサポート。2021年独立、Bous起業。

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