<現地レポート⑥>最低時給 $20の衝撃。歴史的なアメリカのインフレと労働コスト

 
久しぶりのブログ投稿になってしまいましたが、2024年も、ドイツのAmbiente に始まり、NY のギフトショーNY NOW、アメリカ最大の日用品の展示会The Inspired Home Show、同じくシカゴで実施された Coffee Expo など目まぐるしい展示会シーズンを迎えていました。
 
 展示会のレポートはまた更新する予定ですが、去年の下期の展示会と比較すると、年始のこれらの展示会の勢いが戻ってきているように感じており、アメリカの経済の力強さを実感しました。

 小売アメリカの3月の小売業の売上高は前の月と比べて0.7%増加し、市場予想を上回り、雇用統計も良いことからインフレは今後も継続するとみられており、アメリカでビジネスを行う者としてはこうした経済の動きは心強くもある反面、長引くインフレに足して、生活する身としてはなかなか厳しいなぁ・・・というのが実情です。特に最近は円安も進んでいますので、何をするにも、何を買うにも、円で換算してしまうと高すぎて絶句してしまうので、なるべくその変換をやめるよう訓練しているところです・・・

今回は注目されて久しいアメリカの物価高について、いくつかの側面で考察しつつ、最新情報をまとめていきたいと思います。

 

目次

1.       アメリカの物価の数字的な推移
2.       アメリカの平均所得動向
3.       ファーストフード最低時給 $20の衝撃
4.       最後に


1.  アメリカの物価の数字的な推移

 2024年3月時点で、アメリカ合衆国の年間インフレ率は3.5%で、2月末の3.2%からさらに上昇しました。ガソリンや住居費用などだけでなく、消費財およびサービスの価格レベルが徐々に上昇していることを示しています。


過去二十年間(2004-2024) のアメリカのインフレ率や大きな変化:

  • 2000年代初期: 率は約3.4%で推移。

  • 2008年の金融危機: 危機中に急激な下落を経験し、2009年にはデフレ期に入りました。

  • 危機後の回復: 経済の回復とともに徐々に回復。

  • COVID-19パンデミック(2020): 需要の減少により、インフレ率は1.2%に低下。

  • 近年(2021-2024): 戦争による原油高・供給チェーンの混乱と経済刺激策により、2021年と2022年にインフレが急上昇し、2023年と2024年には安定化。

アメリカの過去五年間のインフレの推移。過去5年間の動きをみると、マイナスになっている時期はなく、上記のような様々な要因によって変化しつつ、プラスに推移しています。

 

日本の過去五年間のインフレの推移。過去5年間の動きをみると、コロナ後マイナス成長し、アメリカよりもなだらかに変化している。




特にパンデミックを挟むここ5年間の物価高の伸びは歴史的といわれており、以下のように$100の予算で5年前と比べると購入できるものが 33% 減ったと言われ、一般消費者の家計に大きな影響を与えています。
https://www.instagram.com/reel/C5o_biCvwiA/?igsh=MzRlODBiNWFlZA%3D%3D

2019年に $100.30 で購入できたものたち。

2024年に $100.02 で購入できるものたち。

2.  アメリカの平均所得動向

アメリカの平均所得は年々順調に増加しており、2023年第4四半期の平均年収は59,384 ドル(9,145,136円 / 2024年4月23日現在)で、前年の56,316ドルから約6%上昇しています。ただし、アメリカではこの数値や推移は、州や職業、年齢によって大きく異なります。特に、州による違いは顕著で、マサチューセッツ州とミシシッピ州の平均所得は大きく異なります。

 マサチューセッツ州では、2023年の平均年収が86,840ドル(13,373,360円 / 2024年4月23日現在)と全米で最も高い水準を記録しています。これに対して、ミシシッピ州の平均年収は48,048ドル(7,399,392円 / 2024年4月23日現在)と全米で最も低くなっています。アメリカにおいて収入が高い州はマサチューセッツ以外に、ニューヨーク、ワシントン、カリフォルニア、ニュージャージー、コネチカット、メリーランドとなり、教育水準が高いといわれる東海岸が多い傾向にあります。一方で収入が低いエリアは、ミシシッピ以外にサウスカロライナ、ケンタッキー、ルイジアナ、アラバマ、アーカンソーなど人口が少なかったり、南部や内陸部のエリアに集中しています。

 

3.  ファーストフード最低時給 $20の衝撃

アメリカでは、多くの州で最低賃金が引き上げられています。特に大きな増加をみせるのが(私が住んでいる)カリフォルニア州で、2024年4月1日からファーストフード業界における最低賃金が時給16ドルから20ドルへと25%上昇しました。さすがのアメリカも一度にこの上昇率は歴史的で物議を醸しています。

 日本円ですと、おおよそ時給  3000円ということになります。私の高校生時代のマクドナルドの時給 750円の4倍!しかもこれはあくまで最低賃金であり、実際に、サンフランシスコ国際空港やカジノで働くファーストフード労働者は、時給がそれぞれ22.50ドル、23ドルと、さらに高い賃金を得ています。

州別の最低賃金。内陸や南部のエリアが低く、東海岸、西海岸のエリアは総じて高い。

 この最低賃金の引き上げによって、一部の企業ではメニュー価格の値上げを行うことを発表。たとえば、メキシカンのファストフードチェーンのChipotle のCFOジャック・ハーツンは「カリフォルニアでのビジネスコスト増加に伴い、中〜高単位の価格上昇を顧客に転嫁することになる」と述べています。

 この背景には慢性的な人手不足があり、サービス分野だけでなく多くのセクターで最低賃金の上昇をおこすと予想され、さらに長期的にはAIやロボットなどの人間に頼らないテクノロジーの促進が予想されています。

 

4.  最後に

 インフレインフレインフレと叫ばれている(私が叫んでいる)アメリカですが、カリフォルニアやニューヨークなどの所得の大きな州以外では、最低賃金が2013年の 連邦の定めている$7.25から変化していない州もあり、つくづくアメリカという国が、州という独立した自治によって成り立っていて、政治や地域、産業そして教育によってこうした格差を生み出していることがわかります。

 最低賃金が低いエリアは、教育水準が総じて低く治安が悪く、産業もあまり豊富でないため、多くの若者は州外にチャンスを求めていきます。一方賃金の高いエリアはリビングコストも高いですが、治安が総じて良く教育機関の水準も高いため、世界中から人々が集まり、それだけ様々な機会も多いといえます。

 日本は地域差はありますが、全国同一の教育水準を持っていて、収入格差も都道府県でそこまで大きくない(最低時給岩手県 898円、最高時給東京  1113円)ないので、アメリカの格差社会についてはまた別の機会に詳しくまとめたいと思います。

 


 

参考:

https://www.usinflationcalculator.com/inflation/current-inflation-rates/ 

https://www.cnbc.com/2024/04/10/cpi-inflation-march-2024-consumer-prices-rose-3point5percent-from-a-year-ago-in-march.html

https://abcnews.go.com/GMA/Food/new-minimum-wage-california-industries-now-exempt/story?id=108273389

 

https://www.usatoday.com/money/blueprint/business/hr-payroll/average-salary-us/#:~:text=How%20much%20does%20the%20average,Q4%20of%202023%20was%20%2459%2C384.&text=This%20is%20up%205.4%25%20from,was%20making%20%2456%2C316%20per%20year.

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