関税の「第2波」が来る——日本ブランドへの影響と対策

「関税ショックはもう終わった」——そう思っているなら、危険です。2025年に導入されたアメリカの対中関税のうち、まだ5分の1しか店頭価格に転嫁されていません。残りの80%は今もメーカーと卸が吸収し続けています。ニューヨーク連銀が7月8日に公表したレポートは「さらなる価格転嫁がパイプラインの中にある」と明言しました。第2波は静かに、確実に迫っています。そしてこれは、日本ブランドにとって歴史的なチャンスでもあります。

目次

  1. 何が起きているのか:関税の「3つの波」を整理する
  2. 第2波とは何か:なぜ今から価格が上がるのか
  3. カテゴリ別の打撃:文具・ギフト・日用品・ファッションへの影響
  4. 「脱中国」の加速:日本製品に向く視線
  5. 日本ブランドが今すぐ取るべき5つの対策

Section 1

何が起きているのか:関税の「3つの波」を整理する

アメリカの対中関税政策は、一度の発表で完結したわけではありません。2018年から現在まで、3つの波に分けて理解する必要があります。

第1波:2018〜2019年(トランプ第1次政権)

Section 301関税として中国製品3,000億ドル超に7.5〜25%の関税。衣料品・おもちゃ・電子機器・産業機械などが対象。バイデン政権も維持。

第2波:2025年(トランプ第2次政権「リベレーションデー」以降)

2025年4月2日を起点に追加関税を発動。中国向けの実効関税率が平均33%超、カテゴリによっては145%以上に達する。de minimis免税(800ドル以下の無関税枠)も廃止。

現在進行中:価格転嫁の「第2波」(2026年下半期〜)

関税自体は既に課されているが、コスト転嫁は今もゆっくり進行中。企業が在庫バッファを使い果たした今、価格引き上げが本格化する局面に入っている。

中国製輸入品の平均実効関税率(2026年)

33%超

一部カテゴリは145%超のスタック関税

関税コストのうち店頭に転嫁済みの割合

約20%

残り80%はメーカー・卸が吸収中(HBS分析)

脱中国調達を進めた米国企業の割合(2025年)

79%

さらに40%超が2026年も調達先分散を拡大予定

Section 2

第2波とは何か:なぜ今から価格が上がるのか

「関税はもう1年以上前から課されているのに、なぜ今さら第2波なのか?」と思う方もいるでしょう。答えは企業の「在庫バッファ戦略」にあります。

2025年に関税が発動された直後、多くの輸入業者・メーカー・小売チェーンは関税前に大量の在庫を仕込み(フロントローディング)、その在庫を使いながら時間を稼いできました。しかしニューヨーク連銀が2026年7月8日に発表したレポート「More Tariff Pass-Through Is in the Pipeline」は、「多くの企業が価格調整をまだ続けている。最初の関税導入から1年以上が経過した今も」と明言しています。

「我々の分析は、多くの企業が依然として価格を調整中であることを示している。第1波の関税導入から1年以上が経過した現在も、転嫁はまだ続いている」
— ニューヨーク連銀 Liberty Street Economics, 2026年7月8日

ハーバード・ビジネス・スクールの分析では、高関税カテゴリでは6ヶ月以内に小売価格が最大20%上昇しうると試算しています。在庫バッファを使い果たした企業から順に、この価格上昇が現実になる局面に入っています。

Yale Budget Labの試算

2025年の関税措置により、アメリカの平均的な家庭は年間約2,400〜2,500ドルのコスト増を被ると推計されています。この負担が本格的に家計に響くのが2026年下半期です。消費者がより安価な代替品・代替産地を求める動きがさらに強まります。

Section 3

カテゴリ別の打撃:文具・ギフト・日用品・ファッションへの影響

関税の影響はカテゴリによって大きく異なります。特に輸入依存度の高い品目ほど打撃が深刻です。

文具・ペン・ノート類

影響:中〜大

中国製のボールペン・マーカー・ノートブックは関税の直撃を受ける。一方で「品質重視」の需要は残るため、日本製高品質文具への乗り換え需要が生まれている。TikTokの文具コミュニティでは「中国製から日本製へ」という声が増加中。

ギフト・ホームデコ

影響:大

ギフト品の多くが中国製で、関税の影響をもろに受ける。バイヤーは代替産地を急いで探しており、「日本製・手仕事」というストーリーが差別化になる。Shoppe Objectでも「China alternative」として日本ブランドを求めるバイヤーの声が増加。

日用品・キッチン用品

影響:大

家庭用品・調理器具は「高輸入依存セクター」の代表格。HBSはこのカテゴリで最も強い価格圧力がかかると指摘。日本のキッチン用品・収納グッズ・クリーニング用品は品質・デザインで差別化できる余地がある。

ファッション・アクセサリー

影響:中

基本的な衣料品は2018年の第1波から既に打撃を受けてきた。バングラデシュ・ベトナムへの移行が進んでいるが、日本のテキスタイル・和柄アクセサリーなど付加価値の高いカテゴリは差別化余地が大きい。

Section 4

「脱中国」の加速:日本製品に向く視線

2025年に79%の米国企業が中国からの調達を一部以上移行させました。移行先として台頭しているのはベトナム・インド・メキシコですが、「品質・ブランド価値・信頼性」を重視するカテゴリでは日本が有力な選択肢として浮上しています。

日本製品が「脱中国」の受け皿になれる理由

関税率の差:日本製品の対米関税は15%前後(中国の33%超と比較して約半分)
品質・信頼性:「Made in Japan」は品質保証として機能し、バイヤーが説明責任を果たしやすい
中国製品との価格差が縮小:関税込みで計算すると中国製のコスト優位性が大幅に低下し、日本製との差が縮まっている
日本ブームとの相乗効果:訪日アメリカ人270万人・TikTokの日本コンテンツ人気が「日本製品への親しみ」を底上げ

McKinseyのグローバル貿易レポート(2026年3月)によると、アメリカは中国からの輸入減少分の約3分の2を他の供給国からの輸入で補っています。ただし「ただ安いだけ」の代替品は競合が激しく、ベトナムやインドが先行しています。日本が勝負できるのは「価格以外の価値」——品質・デザイン・ストーリー・職人性のある領域です。

日本が有利なカテゴリ

チャンスゾーン

高品質文具(万年筆・ノート)、キッチン用品・調理道具、収納・オーガニゼーション、スキンケア・美容、アウトドア・工具、和柄・テキスタイル、食品(抹茶・調味料・加工食品)

競合が激しいカテゴリ

注意が必要

大量生産の基礎衣料、低価格電子機器・ガジェット、汎用プラスチック日用品——これらはベトナム・インド・メキシコとのコスト競争になるため、日本製の優位性が出しにくい。


Section 5

日本ブランドが今すぐ取るべき5つの対策

関税第2波は「脅威」でも「他人事」でもなく、日本ブランドにとって参入タイミングを判断する「シグナル」です。以下の5つを今すぐ実行することで、この市場変化を最大限に活かせます。

今すぐ動くべき5つのアクション

  • 自社製品の「関税ポジション」を明確にする:自社の対米関税率(HSコード別)を確認し、競合する中国製品との最終的なランデッドコスト差を計算する。「中国製より安い」ではなく「中国製より価値がある」を数字で示せるようにする
  • 「China alternative」としてのメッセージを準備する:バイヤーは今まさに「中国製の代替品」を探している。Line Sheetや商談の冒頭で「Made in Japan・関税率15%・品質保証」を明示する資料を用意する
  • Ready to Sell の状態を今すぐ完成させる:英語パッケージ・UPCバーコード・CPSC/ASTM対応・英語Line Sheetが揃っていないと、バイヤーが興味を持っても進められない。第2波で需要が高まる前に整備を完了させる
  • 展示会・Faireへの参加を前倒しにする:2026年後半〜2027年初頭の展示会(NY NOW冬版・Shoppe Object)に向けて今から準備を開始する。バイヤーが代替調達先を探すピークに合わせて露出を増やす
  • 価格設定を「関税込みで見直す」:中国製品の値上がりにより、これまで「高すぎる」と見られていた日本製品の価格が相対的に競争力を持ち始めている。新しい価格環境に合わせた価格設定・マージン提案を見直す好機

関税という外部環境の変化は、どのブランドにとっても等しく訪れています。しかし「準備ができているブランド」だけが、バイヤーの新たな調達ニーズを取り込むことができます。第2波が本格化する前の今が、動き出すべき最後のタイミングかもしれません。

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出典:ニューヨーク連銀 Liberty Street Economics「More Tariff Pass-Through Is in the Pipeline」(2026年7月8日)、Harvard Business School Working Knowledge「Eight Trends for 2026」(2025年12月)、Yale Budget Lab(2025年)、NBER「The Incidence of Tariffs: Rates and Reality」(2026年)、McKinsey Global Institute「Geopolitics and the Geometry of Global Trade 2026 Update」(2026年3月)、Euro-American Worldwide Logistics「The New Sourcing Map for U.S. Importers in 2026」(2026年6月)、Dallas Fed Economics(2026年5月)

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