2025〜2026年のアメリカ小売業界「リセットの時代」
2025〜2026年のアメリカ小売業界は、まさに「リセットの時代」を迎えています。大手百貨店の閉鎖、有名チェーンの相次ぐ破産、一方でディスカウント業態の急拡大、そしてBed Bath & BeyondによるThe Container Store買収に象徴される「弱者連合」型のM&A。消費者はインフレと関税に疲弊しながらもより賢く買い物をする「バリュー革命」を起こしています。この大変動を、日本ブランドがアメリカ市場参入を考えるうえで必要な視点とともに徹底解説します。
目次
- 全体像:2025〜2026年のアメリカ小売を数字で見る
- 閉店・破産の波:何が起きているのか
- 勝ち組と負け組:拡大する業態と縮む業態
- 注目M&A:Bed Bath & Beyond × The Container Store統合
- 消費者の変化:「バリュー革命」と関税の影響
- 今後の展望と日本ブランドへの示唆
Section 1
全体像:2025〜2026年のアメリカ小売を数字で見る
2025年のアメリカ小売業界は閉店ラッシュの年でした。推計で約15,000店舗が閉鎖され、2024年の7,325店舗の倍以上という衝撃的な数字を記録しています。それでも2026年は「最悪期の脱出」の兆しが見え始めています。
2025年推計閉店数
〜15,000
2024年比約2倍(Coresight Research)
2026年予測閉店数
約7,900
前年比4.5%減・3年ぶりの低水準(Coresight)
2026年新規出店予測
+4%
ディスカウント・美容系が牽引(CoStar)
2026年は閉店数が減少に転じる一方、新規出店が増加へ向かうという「底打ち感」があります。ただしTelsey Advisory Groupは「インフレや関税の不確実性が続くため、大きな回復は期待できない」と慎重です。実態は業態によって明暗が大きく分かれており、「勝ち組のさらなる拡大」と「負け組の撤退加速」が同時進行する二極化の状態です。
Section 2
閉店・破産の波:何が起きているのか
2025年から2026年にかけて、アメリカ小売の「レガシーブランド」が次々と経営危機に陥りました。主な動向をまとめます。
Saks Global(Saks Fifth Avenue・Neiman Marcus)
高級百貨店2026年1月にChapter 11を申請。Saks Off 5thは57店舗以上を閉鎖予定。高級百貨店業態の構造的な苦境を象徴する出来事となった。
Macy's
百貨店「Bold New Chapter」戦略のもと2026年までに150店舗を閉鎖。不採算店を整理し、オンラインと主要拠点に集中する方針。
Walgreens / CVS
ドラッグストアWalgreensが3年間で1,200店舗を閉鎖予定。CVSも縮小を継続。薬局チェーン業界全体が大きな構造転換期を迎えている。
The Container Store
収納専門店2024年12月にChapter 11申請、8,800万ドルの債務を整理して2025年初頭に再建。その後Bed Bath & Beyondに1億5,000万ドルで買収される。
Kroger
食料品スーパー2025年9月から18ヶ月かけて60の不採算店を閉鎖。食料品業界でも規模の最適化が進む。
Party City / Carter's他
専門店Party Cityは全700店舗が2025年2月末までに閉鎖。Carter'sは2026年末までに約100店舗を閉鎖予定。専門店業態の淘汰が加速。
業界の構造的背景
これらの閉店・破産は単なる個別企業の失敗ではなく、Eコマースの浸透、インフレによる消費者の節約志向、中国依存サプライチェーンへの関税打撃という3つの構造的変化が重なった結果です。Forresterは「高インフレ・高金利・大手量販との競合の三重苦で、スペシャルティ小売業が最も苦境に立たされている」と分析しています。Section 3
勝ち組と負け組:拡大する業態と縮む業態
📈 拡大している業態
ディスカウント・バリュー系
最大の勝ち組Dollar General、Aldi、Five Belowが2026年の新規出店ランキングトップ3。Tractor Supplyも積極出店。インフレ疲れした消費者が「安くて品質がいい」価値を求めてシフトしている。
美容・ビューティー系
急拡大中Ulta Beauty、Sephoraなどビューティー専門チェーンが積極的に出店。「プチ贅沢」として美容品への支出は他カテゴリより堅調。
オフプライス・リセール
関税恩恵ありTJ Maxx、Marshall'sなどオフプライス系が新規立地を積極的に確保。関税による新品価格上昇でリセール市場(ThredUpなど)も成長中。
会員制倉庫型
安定成長CostcoのKirklandブランドと会員制モデルが底堅い。高所得者層のバルク購入が継続して流入。2025年度の会員費収入は14%増。
📉 縮小・苦境の業態
百貨店・高級小売
構造的縮小Macy's、Saks Global(破産申請)など。高価格帯でEコマース・オフプライスとの二方面からの挟み撃ちにあう。
ゲーム・エンタメ専門店
デジタル化の犠牲GameStopが2026年最多閉店予定チェーンの一つ。デジタルダウンロード化の進行で物理店舗の存在意義が薄れている。
ドラッグストア
大規模リストラWalgreens・CVSが大規模閉店。薬局業務のオンライン化・宅配化、PBMとの価格交渉難が重なり収益モデルが崩壊しつつある。
アパレル専門店(中価格帯)
二極化の谷間Francesca'sが多数閉店予定。「高い」でも「安い」でもない中価格帯が消費者の二極化の中で最も苦しい状況。Abercrombie & Fitch、Gapなど「再生に成功した」一部を除き苦境。
Section 4
注目M&A:Bed Bath & Beyond × The Container Store統合
2026年4月6日、アメリカ小売業界最大の注目案件が動き出しました。Bed Bath & BeyondがThe Container Storeを約1億5,000万ドルで買収すると発表したのです。
Bed Bath & Beyond(BBBY)
オンライン+実店舗復帰中1971年創業の老舗ホームグッズチェーン。2023年に破産・全店閉鎖。OverstockがIPを取得しオンラインで再始動。現在Marcus LemonisがCEOとして「Everything Home」戦略を推進中。傘下にOverstock、buybuy BABY、Kirkland's Homeなどを持つ。
The Container Store
収納専門98店舗1978年テキサス州創業。収納・オーガニゼーション専門チェーン。スウェーデン発のElfa収納システムとカスタムクローゼットブランドCloset Worksも傘下に持つ。2024年12月に破産申請、2025年初頭に再建。全98店舗が「Container Store / Bed Bath & Beyond」にリブランド予定。
— Marcus Lemonis(Bed Bath & Beyond CEO、2026年4月)
LemonisはContainer Store買収に加え、Cabinets To GoとLumber Liquidatorsの親会社F9 Brandsの取得LOIも発表(約1億5,000万ドル)。床材・キャビネット・照明まで取り込み、住まいに関するすべてをカバーする「Everyone Home(アメリカ初のホームエコシステム)」構想を描いています。
懐疑的な見方も根強い
MorningstarアナリストのDavid Schwartzは「失敗したビジネスの集合体」と指摘。GlobalDataも「寄せ集め(hodgepodge)」と批判的に評価。Fortuneは過去の失敗したリテールM&A(Hudson's Bay、Men's Wearhouse×Joseph Abboudなど)を引き合いに出し「弱者同士の統合は必ずしも強者を生まない」と警告。株価はLemonisのCEO就任(2025年1月)以降15%下落しており、過去3年の累計純損失は6億5,000万ドルに上る。Section 5
消費者の変化:「バリュー革命」と関税の影響
小売業界の再編を根本から動かしているのは、変化した消費者行動です。McKinseyのConsumerWise調査では、消費者の43%がインフレを最大の財務的懸念として挙げ、29%が関税を購買に影響する主要因として挙げています。
関税で行動を変えた米国消費者
79%
2025年調査。4人に3人が安いブランドへ移行(McKinsey)
2026年ソーシャルコマース市場規模
$1,000億超
インフルエンサー経由の購買が急拡大
AIを1つ以上の業務に導入済みの小売企業
87%
60%がAI投資を拡大予定(Smurfit Westrock)
関税がもたらした構造変化
2025年のトランプ政権による関税政策は、アメリカの小売・Eコマースに大きな爪跡を残しました。中国からの輸入品への実効関税が150%を超えるケースもあり、SheinやTemuのような格安ECの価格競争力が一気に失われました。特に脆弱なのはおもちゃ・ファッション・電子機器・日用品など利幅の薄いカテゴリで、仕入れコストの急騰が末端価格に転嫁されています。
一方、de minimis免除(800ドル以下の輸入品の無関税枠)の廃止により、海外直送ECのビジネスモデルが根本から揺らいでいます。これはアメリカ国内に在庫を持つ小売企業や、日本国内から正規ルートで輸出するブランドにとっては追い風ともなります。
消費者の新しい行動パターン(2026年)
・「量より質」志向:高品質で長持ちする商品に対する willingness to pay が高まる・プライベートブランドが「第一選択肢」に:消費者の84%がPBをナショナルブランドと同等以上と評価
・リセール・中古市場の成長:関税値上がりを受け新品からの移行が加速
・ブランドロイヤリティの低下:60%以上が「より良い価値があれば乗り換える」と回答
Section 6
今後の展望と日本ブランドへの示唆
アメリカの小売業界は2026年以降も「二極化の加速」が続くと予測されています。勝ち残るのは「圧倒的なバリュー」か「圧倒的な体験・ストーリー」を提供できるブランドです。その中間の「それなりの品質・それなりの価格」のポジションは最も厳しくなっています。
日本ブランドがこの環境で取るべき戦略
- 「Made in Japan」を価値として明確化する:関税による中国製品の価格上昇で、日本製品の「品質と適正価格」の組み合わせが相対的に魅力的になっている
- バリューチャネルへの展開を検討する:Costco、TJ Maxx、Aldiなど拡大中の業態は日本製品との相性が高く、新規参入の機会がある
- ホームカテゴリの変化に注目:BBB×Container Store統合が示すように、収納・ホームオーガニゼーション・リフォームサービス市場が再編中。この領域の日本製品(収納グッズ、工具、照明)には新たなバイヤーへのアクセス機会が生まれる可能性がある
- SNS・コミュニティ経由の需要を活用する:ソーシャルコマースが1,000億ドル超市場に成長。「日本旅行で見つけた」「TikTokで話題」という導線で商品認知を高めることが最も効率的
- de minimis廃止を逆手に取る:格安中国製ECの価格優位性が失われている今が、正規ルートで品質訴求する日本ブランドの参入タイミング
アメリカの小売業界は今、大きな地殻変動の最中にあります。この混乱期は、正しく準備したブランドにとっては「棚が空く」「バイヤーが新しい選択肢を求めている」という絶好の参入タイミングでもあります。変化のスピードに合わせた戦略と、確実な「Ready to Sell」の準備こそが、この市場での成功を左右します。
出典:Retail Dive、Fortune、CNBC(2026年2月)、Coresight Research、CoStar、Telsey Advisory Group、McKinsey ConsumerWise、Smurfit Westrock Retail Trends 2026、Business Wire(Marcus Lemonis株主書簡 2026年4月2日)、eMarketer、Digital Commerce 360、Upside Consumer Spend Report 2026